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「亡き母への手紙」KKベストセラーズ 1,300円(税別)


母の日に母の墓前を訪れる『母の日参り』が新たな文化になりつつある。
この『母の日参り』に日本香堂、日本郵便、日比谷花壇などの各企業・団体が賛同。
さらに広く社会に伝えていこうと、2017年に「母の日参り」パートナーシップが結成された。
業界の垣根を越えた6企業・七団体、計13社のメンバー構成で協議を重ね、連携を深めている。


同パートナーシップは、2018年と2019年に、亡き母へ宛てた手紙コンクールを開催した。
本書は、それら2回のコンクールで全国の幅広い年代層から寄せられた3000通を超える〝亡き母への手紙〟のなかから受賞作品を中心に編集された。

「遠いあの日を思い出す追憶」、「突然襲ってきた別れへの悲しみ」、
「仲が良かったわけではなかったまま別れてしまった悔い」、「亡くなったあなたに似てきた喜び」、
「母のようだったあの人への感謝」など、さまざまな母への思いが込められた選りすぐりの50通。

誰もが、共感できる一通があるだろう。
第2回コンクールの選考委員長を務めた俳優・草刈正雄氏やグリーフケア専門家の上智大学グリーフケア研究所特任所長・髙木慶子氏のインタビューも交えられている。
亡き母との絆を〝前向きに生きる力〟へと転換するヒントが凝縮された本書。


掲載された手紙の一つから

あなたのセーター  

ケイト(女性64歳・栃木県)

あなたが初めて私にねだった毛糸玉、覚えていますか。
ボーナスでなにか買ってやると言ったら目を輝かせて、「セーターを編みたい」と言ったわね。
夕暮れの街を、腕を組んで、手芸店まで急いだわ。

棚の中から緑色の毛糸玉を取ってじっと見つめるあなたの瞳は、まるで少女のように透き通っていた。
「高価すぎる」と迷っているのを遮って、セーターが編めるだけの玉数を買い求めた。

でき上がったセーターは、あなたにとても似合っていた。二人で相談して、胸元に小花を飾ったわね。

今、私の寝室の白い戸棚の中に、そのセーターを着て座っている、痩せ細ったあなたがいます。
作り笑いの顔には、激しい痛みに耐える苦悩が、透けて見えます。
写真に線香を手向けるたびに、胸が締めつけられます。「どんなに苦しかったことか・・・」と。

あなたの告別式の日に、遺品としてもらってきたあの緑のセーターを胸に抱き締めたら、
耐え切れなくなって顔を埋めました。


思いがけず、セーターからあなたの懐かしい匂いがした。胸に抱かれているようで、
「おかあちゃん」と、幼い頃のように呼んだら、悲しみが堰を切って溢れ出ました。

お母さん、あれからずっと、セーターを仕舞ったまま取り出せずにいます。

私、いまだに弱虫なのよ。